VRとうより科学読み本として面白い。廣瀬通孝「いずれ老いていく僕たちを100年活躍させるための先端VRガイド」(海星社新書)

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 VRについて情報取集したくて本屋さんで手に取った本書(廣瀬通孝「いずれ老いていく僕たちを100年活躍させるための先端VRガイド」(海星社新書))を読み終わり、その感想は科学読み本として面白いであった。

 言っていることは、日本の今後の少子高齢社会について、なかなか考えさせられる内容であるし、将来、高齢化×VRというキーワードが重要になりそうなことはわかった。

 ただし、本書は、VRのテクノロジーをゴリゴリ記載しているものであるわけではない。その意味で、ギーク的な内容を期待した読者は残念な読後感を感じるであろう。

 個人的には、それでも随所に科学者である筆者のものの考え方が理解できとても面白いと思った次第である。

 そこで本書の中で、個人的にマッチした部分をいくつか紹介したい。

1.現実世界だけでなく、仮想世界にまで拡張して、問題を解決していく
2.感覚を超えることがVRのひとつの機能
3.2度目のブームのVR

1.現実世界だけでなく、仮想世界にまで拡張して、問題を解決していく


 本書では、廣瀬氏が下記のような説明のもと、VRは現実世界で解決困難な事象を、仮想世界にまで拡張して考えると解決策が見えてくることがあるとしています。

 現実世界は複雑で、そのままでは解決するのが難しい問題がたくさんあります。しかし、同じ問題をバーチャルの世界に持ち込めば、解決の糸口が見えるかもしれません。それは「数の拡張」と同じような考え方です。

 このような考え方は、非常によく理解できる。まさに、本書の中で廣瀬氏が紹介しているように、数学の世界での実数から虚数への拡張はその考え方の最たるもの。虚数という仮想の数字を作り、演算ルールを用いてやると、実は簡便に解が得られるようになる。

 解こうとしている社会問題も、現状の範囲だけではなく、一回り以上大きな範囲で考えて、解決策を考えていけば、解ける問題が多くなる。

 廣瀬氏は、このような考え方に基づいてVRの活用を進めていくべきではないかと言っている。単にリアリティがあり楽しいエンターテイメントが楽しめるツールとしてのVRではなく、現実の世界では様々な物理法則のによる限界、社会的なルールや慣行の制限を超えて、仮想世界まで世界を広げることで、社会問題の解決策が見出しやすくなるという考え方。

 こうした考え方は、抽象的でよくわからんという人も多いだろうが、新しいテクノロジーの活用を考えていく際には、軸にしていくべきコンセプトになるのではないか。




2.感覚を超えることがVRのひとつの機能


 VRの機能として、本書では「①時間を超える」「②空間を超える」「③感覚を超える」の3つあると指摘している。

 ①と②はわかりやすい。VRを使って過去の街並みを体験する、VRを使って遠隔地の人たちとあたかも対面でコミュニケーションしているような体験をする等、具体的に一般の人でも直感的に理解できるVRの重要機能である。

 それに加えて廣瀬氏は、感覚を超える、ことがもう一つの重要なVRの機能であると指摘している。

 VRで現実世界をリアルに再現した世界を、時間を超えて、空間を超えて、人間が体験するだけではなく、これまでなかった新しい感覚を体験することもVRの新しい機能であると。

 VRを使って、現実にはあり得ない(あったとしても、まれでありほとんどの人が体験できない)感覚を、VRを使って疑似体験できるようにすることは、確かにインパクトがあるように感じる。

 これは、異能者が感じている感覚、つまり普通の人間では通常感じられない感覚を味わうためのツールがVRとなるのだろうか?

3.2度目のブームのVR


 昨今のVRブームは、2度目のブームである。廣瀬氏も言及している通り、2度目のVRブームが起きているからと言って、VRの原理的な理論に何かブレイクスルーが起きたわけではない。

 むしろ、周辺環境として、様々な技術的進化があったことが大きい。

 インターネットの普及、デバイスの高性能化と低廉化等。特に大きいのは、一昔前は、1台数百万円したHMDが、昨今では数万円で手に入るようになったことであり、それにより、VRをいかに活用するかという視点を重視する、非開発者のVR界隈への参入が社会・経済的には大きいという。

 このような本書の記載を読み、近年、この手の事象が多い気もしている。本当の意味での理論的ブレイクスルーというよりも、数十年前に理論的には完成されたもの、ただ当時は周辺技術が未熟であったために、実用化不可能としてお蔵入りされていた、テクノロジーが近年の情報通信技術の高度化とともに、再登場している。

 人工知能のひとつの技術であるディープラーニングもまさにこのパターンではないかと。

4.読後の所感まとめ


 冒頭でも述べたが、本書(廣瀬通孝「いずれ老いていく僕たちを100年活躍させるための先端VRガイド」(海星社新書))は、VRのテクノロジーをゴリゴリ記載しているものであるわけではない。

 むしろ、高齢化×VRというキーワードをもとに、高齢化が進む将来の日本において、VR活用が重要になるのではないかという主張をしている書籍となっている。基本的な科学的な考え、社会経済の背景をわかりやすく紹介したものであり、その中で、VRの話題も盛り込まれている書物とも言えるのではないか。

 そのため本書は、VRのテクノロジーについて事細かに知りたい読者には、残念な読後感を感じるものであろう。個人的には、それでも随所に科学者である筆者のものの考え方が理解できとても面白いと思ったけれども。

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    2016年11月04日 09:38

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