資産形成に関心がある多くの人が知っているであろう推計結果がある。野村総合研究所による「日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」の結果である。日本で唯一の推計なのだろうか、多くの人がこの推計結果を引用して物事を語っている。
この度、2025/02/13付けで最新の推計結果が出たとしてリリースされていた。結果として、前回推計(2021年)に比べ、世帯数は約11%、資産総額は約29%増加となり、「いつの間にか富裕層」など新たなトレンドも発生しているとされる。
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20250213_1.html
この結果を見て、個人的に興味を持った部分を考察も含めて書き連ねてみたい。
〇富裕層・超富裕層の世帯数は2005年以降の最多
純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」、および同5億円以上の「超富裕層」を合わせると165.3万世帯で、2021年の148.5世帯から11.3%増加という結果は、ある意味で衝撃的である。
ざっくり言えば、億万長者と言われるような世帯が急激に増えているのだ。経済的に停滞ししている?と言われる現代の日本で、個別の世帯として、裕福になっている人たちが増えているという事実である。
なんとなく日々の生活感覚からすると、それほど景気が良く、金回りが良い状況ではないと感じている。その中で、億万長者が増えているというのだから驚きである。本当なのだろうか。今どき、億万長者になった人を外形的に見て判別するのは難しいのかもしれないが、推計結果からすると、億万長者は結構身近にいるのかもしれない。
ちなみに、この推計は、2017年、2019年、2021年、2023年と直近10年間でも2年ごとの推計結果があるが、超富裕層は8.4万世帯→8.7万世帯→9.0万世帯→11.8万世帯、富裕層は118.3万世帯→124.0万世帯→139.5万世帯→153.5万世帯と増えている。特に、直近の2021年→2023年の増え方はえぐい。
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過去10年近くにわたって富裕層・超富裕層の世帯数が伸長している要因
その要因とされているのが、株式や投資信託などの資産価値の上昇により、これらリスク性資産の比率が高い富裕層・超富裕層の保有資産額が増加したこと、準富裕層の一部が富裕層に、また、富裕層の一部が超富裕層に移行したため、と考えられているという。
確かに、ここ10年程の間の株式や投資信託による資産価値の上昇はえぐいものがある。20代のまだ資産形成の初期の段階であるはずの人であっても、手持ちのお金をすべて株式に投資していて、一気に億万長者になった人も一定数いるようである。YouTubeなどで自ら自慢げに動画で報告している人も相応にいるので。
また、同推計の分析結果には、「いつの間にか富裕層」となる一般生活者、という記述もある。
確かに、近年の株式相場の上昇を受け、運用資産が急増したために富裕層となった層が近年の特徴かもしれない。年齢は40代後半から50代、職業としては主に一般の会社員で、従業員持株会や確定拠出年金、NISA枠の活用を通じて、運用資産が1億円を超えたケースが多く見られるという。
そう考えると、株式や投資信託などの資産運用の底時からを感じてしまう一方で、現代の資産1億円というのは、実のところ昔ほどの価値はないのかもしれない。数値としては同じ1億円であるが、価値としては、例えば、ひと昔前の資産5千万円程度でしかないのかもしれない。
億万長者という言葉であまり喜んでいられない実情があるのではないだろうか。
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他方で気になるのは、アッパーマス層の減少、マス層の世帯数増加
他方で、アッパーマス層の世帯数は減少し、マス層の世帯数は増加している。
アッパーマス層
720.3->712.1->726.3->576.5万世帯
マス層
4203.1->4215.7->4213.2->4424.7万世帯
アッパーマス層は資産3千万~5千万円と定義されるが、この層の世帯数が2023年に急激に減少している。一定数は、準富裕層という上位クラスへの移動で好ましい動きかもしれないが、それ以上の数が下位クラスのマス層になっているのではないかとも思われる。
マス層に至っては、2023年に200万世帯も一気に増えている。世の中的に世帯数の増加(一人世帯の増加)というトレンドもあり、マス層が増える傾向にあることは間違いないが、それでもアッパーマス層からの下位移動も起きていることは間違いない。
そう考えると、世帯別の資産という観点からは、富裕層への上昇と、マス層への下落の二極化が起きていると読んでもおかしくはない状況である。
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世の中の分断が起きていることも想像できる結果
こうしたことも見てみると、日本の社会の中で大きな二極化が進行していることが想像できるが、今の時代、人の見た目でその資産状況などをぱっとうかがい知ることは難しい。
見た目質素で、それほどお金持ちに見えない人々でも、実は資産1億円以上の富裕層という人たちも普通に存在する。他方でマス層の人々も、ひと昔前のアニメのような、身なりからして貧困世帯とわかるような人々はほぼいない。
これはユニクロなど、安価で誰でも手に入る衣料品などが普及し、なおかつそれがカッコいいものであることから、富裕層でもマス層でも同じものを購入していることによるのであろう。そう考えると、日々の生活は一定程度分け隔てない、分断など起きていない世の中のような印象も受ける。
しかしながら、資産という人の活動の源泉ともなるお金にこれだけのギャップがあれば、目に直接見えない部分で大きな分断が起きていると考えて間違えないであろう。米国のようにその分断が、政治の分断、社会の分断につながり社会不安につながるようになれば大きな問題になる。
それが起きていないから日本は大丈夫と見る向きもあるだろうが、見えないところでじわじわと問題が発生する、つまり人々の不満が水面下で蓄積し、いつかどこかで何かが起きるかもしれないという爆弾は確かにあるであろう。
なお、政治側では過度にマス層の窮状を拡大解釈し、むやみに富裕層に負担を強いる社会制度を構築する向きもある。それはそれで、不自然なものであり、人々の不満の蓄積につながる。世帯における資産の二極化について、またその対応についてはバランス感覚が求められることであろうが、なかなか出口は見つからない。
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