賃上げの罠?給料アップの先にある未来を考える

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日本における賃上げの背景


近年、日本では「賃上げ」という言葉が様々な場面で強調されている。その背景には、いくつかの重要な要因がある。

①深刻な人手不足が挙げられるのはみなが納得するであろう。日本は少子高齢化の先頭バッターのような存在である。労働人口が減少しており、数年先には体感的にも優秀な人材を確保できなくなるという企業経営者の危機感が高まりつつある。そのため人を確保するためにも賃上げを行わざるを得ない状況ともいえる。

②物価の上昇も大きな要因となっている。2022年以降、インフレ傾向が強まり、生活費が上昇している。円安や原材料費の高騰が影響しているのである。従業員の暮らしは厳しくなっており、自社の従業員の生活を守り、一定程度の生産性を担保するためにも賃上げをすることが必要な状況である。

③さらに、政府の賃上げ促進税制も賃上げを後押している面もある。企業が賃上げを行うことで税控除を受けられる仕組みが整備されている。またことあるごとに政治家は企業に賃上げを求め、賃上げが正義であるかのようにPRしている。

ところで、③については少し気になっている点がある。

政府が賃上げを推進する点に、デメリットもあると考えられる。2024年の春闘では大手企業を中心とした賃上げの動きが顕著であり、賃上げ率は平均で5.24%に達したともいわれるが、賃金を上げることの危機感などの理解を伴わない、楽観的な国民に大量に作ってしまっているようにも思えるのである。

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急激な賃上げの結果、皆が幸せになるのであろうか?改めて疑問を提起してみたい


賃上げについて、いち労働者の視点では、「同じ仕事をしていても、年々、給与が上がっていくという世界観」を持っているのではないだろうか。いち労働者が見えている世界観では、給料が上がることは嬉しいことであり、本人にとっては正しいことなのだろう。

例えば、毎年3%程度アップし、それが積み重なっていくと相応の収入アップにつながる。それがサステナブルなものであれば、確かに嬉しい限りである。

しかし、人件費が相応に発生するという点を、会社経営の側から見てみると、本当に大変な状況になっていく。年々、人件費が3%でアップしていけば、あっという間に企業の収益状況を圧迫し、下手したら赤字に転落してしまう。これは、いち労働者の視点とはことなるものである。

赤字に転落した企業は、それほど遠くないうちに、構造改革などを迫られることになる。人件費の増加に見合った企業収益を上げていくべく、人員整理や、コストカットなどを強行に社員に迫っていくことになるであろう。

そうした取り組みで、収益が上がらなければ、遠くない将来、その企業は市場から退出する、つまり、淘汰されてしまうという恐れも一定程度現実に考えなくてはいけない。

この点を、一労働者はどうとらえているのだろうか?

目先の給料が年々上がっていくことに満足していて、数年先に職を失うリスクが高まることを良しとするのであろうか?それでも良いと考えているのであろうか。おそらくはそこまで考えていないというのが実際なのではないだろうか?

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給料が上がるということは、それだけ高い成果が求められるようになるということ


単純に賃上げが毎年繰り返されている中で、喜んでいるだけでは危機感が欠如しているとしか言えない。同じ仕事を同じだけ、もしくは働き方改革という名のもととに、より楽な仕事へつながると考えているならば、それは危機感の欠如としか言いようがない。

一労働者の仕事と処遇という観点で、経営視点で見てみると、労働コストが上がるのだから、それに見合う生産性が生み出されないのであれば、そもそもその労働力は不要と考える、もしくは別の仕事に労働力を配分すると考える等は合理的である。

給料を増やし、同じ仕事を楽にしたいと言い続ける労働者は、今一度上記のような状況を考えてみた方が良い。どう考えても、それら要求は短期的には実現したように思えるかもしれないが、遠くない世界でそもそもその仕事がなくなる可能性が高い。経済合理的ではないのだから。

賃上げは単純に労働者にとって良いことなのかと問われると、かなり微妙かもしれない。給与が上がるということはそれだけ生産性を高めよと求められることであり、それに対応できなければ淘汰される可能性がある。

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では、いち労働者はどうすべきなのか?


給料が上がっていく世界の中で、求められるアウトプットも高まっていく。そしてそれを実現できない場合、そのポジションを失う恐れも高まる中で、いかに生産性を高め自身のポジションを確保していくのか。

ChatGPTに「生産性向上の具体策」を聞いてみると、ある種、通り一遍の回答が得られる。

・賃上げに対応するためには、単に給与を上げるだけでなく、それに見合った生産性向上が求められる。生産性を高めるためには、以下のような具体的な取り組みが必要となる。1. スキルアップと学習の強化
2. 業務プロセスの見直しと改善
3. ITツール・AIの活用
4. 柔軟な働き方の導入
5. モチベーション管理と組織文化の改善


この回答を見て、そうか、スキルアップして、やっている仕事の無駄を見つけ出してなくす、そのためにはITツールを駆使すること、また在宅勤務など柔軟な働き方をすることで生産性を高められると、世の中の人は考えるのであろう。

しかし、これを信じる前に一歩立ち止まってほしい。上記の方向性はある意味正しいと思う。しかし、これは企業の中で生産性が高く、必要不可欠と考えられるコア人材が、そうでない人材を管理し、少しでも生産性を高めるための方策である。逆に言えば、このような取り組みを指示され、それに従うのみの人材は、それほど遠くない将来、淘汰される、退出させられる側になる。

というのも、あくまでも上記の1~5を実施される側は管理される側であり、AIなどのテクノロジーが高度化し、人間ではなくITやロボットで自動化できるようになれば、代替えされるものであろうから。給料が発生し、不平不満も出てくる人間よりも、ITやロボットの方がはるかに有効であるのだから。

そうこう考えると、1~5も大切なのは変わらないが、やはり人間として生産性が高く求められる人材になるとは、単純の作業を指示され実行する側ではなく、取り組むべき活動を企画し、指示する側になることである。

今までと同じ仕事をしたい、仕事を減らしてほしい、という発想の労働者にとどまっていては、目先の給与増加はあっても、将来的に給与すらもらえないポジションになってしまうのであろうと想像されるのである。





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